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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5111号 判決 1998年1月21日

原告

中道昭次

ほか一名

被告

岡田博

主文

一  被告は原告中道昭次に対し、金三二九三万七四八〇円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告中道和子に対し、金三二九三万七四八〇円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

五  この判決は第一項、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告中道昭次に対し、金四二六一万四八〇四円及びこれに対する平成九年一月一三日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告中道和子に対し、金四二六一万四八〇四円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動二輪車を運転中、普通乗用自動車と衝突し、死亡した中道英和(以下「英和」という)の相続人たる原告らが、普通乗用自動車を運転していた被告に対し民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実(以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す)

1  事故の発生(争いがない)

(一) 日時 平成九年一月一三日午前一時四〇分頃

(二) 場所 大阪府門真市大字上馬伏七五七番地先路上

(三) 関係車両

加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七一ち六八七六号、以下「被告車」という)

被害車両 中道英和運転の自動二輸車(一大阪の九八二一号、以下「原告車」という)

(四) 事故態様 被告車と原告車が衝突した。

2  被告の責任原因(争いがない)

(一) 被告は、民法七〇九条の賠償責任を負う。

(二) 被告は被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の賠償責任を負う。

3  英和の死亡(争いがない)

英和は、本件事故により傷害を負い死亡した。

4  原告らの地位(甲一二)

原告中道昭次(以下「原告昭次」という)は英和の父であり、原告中道和子(以下「原告和子」という)は母であり、英和の権利義務を二分の一づつ相続した。

5  葬儀費用(争いがない) 一〇〇万円

二  争点 損害額全般特に逸失利益

(原告らの主張)

1 逸失利益 五二二二万九六〇八円

英和は、当時大学二年生であったが、原告昭次が躁鬱病で入退院を繰り返していたことから、英和は一家の生活を支えるべくアルバイト勤務し、月収一二万円を得ていた。また、英和の妹は中学生であり、英和は大学卒業後は、昭次に変わって一家の支柱として家計を支えることが予定されていた。したがって、大学卒業までの二年間の生活費割合は四割、卒業後は三割とすべきである。これに基づき、逸失利益を算定すると、右金額となる。

計算式

(一) 一二万円×一二月×(一-〇・四)×一・八六一=一六〇万七九〇四円

(二) 三二四万八〇〇〇円(平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・大学卒、男子労働者二〇歳から二四歳までの平均年収)×(一-〇・三)×二二・二六五=五〇六二万一七〇四円

(三) (一)+(二)=五二二二万九六〇八円

2 慰藉料 二六〇〇万円

3 弁護士費用 六〇〇万円

よって、各原告は、二の1ないし3、一の5の合計額八五二二万九六〇八円に各原告の相続分を乗じた四二六一万四八〇四円及びこれに対する本件事故日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

1 英和は独身男性で、原告らと同居していたものの、原告らを扶養していたわけではないから、生活費割合は五割が相当である。

2 原告ら主張の慰謝料額は過大である。

3 原告らが被害者請求をしていない点を考えると原告らの弁護士費用の請求は過大である。

第三争点に対する判断

一  認定事実

証拠(甲二ないし一二、原告中道和子本人)及び弁論の全趣旨を総合すると次の各事実を認めることができる。

1  英和(昭和五二年一月一八日生、当時一九歳)は、大阪産業大学二回生の健康な独身男性であった。

2  英和は、原告昭次(昭和二〇年二月二九日生、当時五一歳)、原告和子(昭和二二年四月二四日生、当時四九歳)、姉のあゆみ(昭和四九年六月七日生、当時二二歳)、妹の美鈴(昭和五八年五月一二日生、当時一三歳)、原告昭次の母親たる中道シメ(大正三年五月一七日生、当時八二歳)の六人家族であった。

3  原告昭次は、松下電池工業株式会社に勤務していたが、躁鬱病に罹患し、入退院を繰り返すようになり、平成六年五月ころから休職していたが、近く職場復帰する予定になっていた。

原告昭次は、休職手当てを支給されていたが、生活が苦しく、事故当時、原告和子は月々九万ないし一〇万円のパート収入を、あゆみは、月々三万円余りを給与の中から、それぞれ家計に入れていた。

4  英和は、大学入学のころからアルバイトをしていたが、平成八年六月ころからロイネットホテル東大阪において、週二、三回フロント係として勤務し、平均月額一〇万円の給与を得ていた。英和は、小遣いその他の私用は右給与で全てまかない、時折、原告和子に三万円程度を渡していたが、その金額は平均すると月額二万円足らずであった。大学の授業料は年額九〇万円余りであったが、これは、前記家計の内から支払われていた。

5  原告昭次は、平成八年一一月三日、通院しながらも復職し、その給与は通常のものに戻った。中道シメは、英和に深い愛情を注いでいたが、その死を知らされることなく、平成九年四月九日死亡した。

二  判断

1  逸失利益 三七二七万四九六〇円

(主張 五二二二万九六〇八円)

英和は、アルバイトを継続的になし、その収入の一部を、原告和子に渡すことはあったが、不定期であった上に、家計に入れていた金額も大学の授業料を下回っており、英和が原告らの生活を維持していたとも、また英和の収入が家計にとって不可欠であったとも認められない。英和の生活費割合は五割とするのが相当である。

英和は、本件事故に遭わなければ、大学卒業までの二年間は月収一〇万円を、平成一一年三月に大学を卒業した後、同年四月から少なくとも平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・大学卒、男子労働者二〇歳から二四歳までの平均年収三二四万八〇〇〇円を、就労可能年齢である六七歳まで得られたはずである。これに基づき、ホフマン方式により中間利息を控除して逸失利益の事故時の現価を算定すると前記金額が求められる。

計算式

(1) 一〇万円×一二月×(一-〇・五)×一・八六一=一一一万六六〇〇円

(2) 三二四万八〇〇〇円×(一-〇・五)×(二四・一二六-一・八六一)=三六一五万八三六〇円

(3) (1)+(2)=三七二七万四九六〇円

2  慰藉料 二四〇〇万円

(主張二六〇〇万円)

英和の年齢、生活状況、前記認定の家族状況からして原告らが精神的に英和に頼る部分が多かったこと等本件審理に顕れた一切の事情を考慮して右金額をもって慰謝するのが相当である。

第四賠償額の算定

一  総額

第三の二の1、2、第二の一の5の合計は六二二七万四九六〇円である。

二  各原告の賠償額

1  一の金額に各原告の相続分である二分の一を乗じると、三一一三万七四八〇円となる。

2  1の金額、事案の難易、請求額、原告らが自賠責保険金を請求した場合、自賠責保険金三〇〇〇万円が支給されたであろうこと等諸般の事情を考慮して、原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告が負担すべき金額は、各原告について一八〇万円と認められる。

3  よって、各原告の被告に対する請求は、1、2の合計三二九三万七四八〇円及びこれに対する本件事故日である平成九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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